山梨学院大学 スポーツ科学部

行動に楽しみ入っていますか

2026年6月1日

加戸 隆司

 私は、人生でいちばん欲しい能力は何かと聞かれたら、「努力できること」だと答えると思う。「頑張れればいいな」「もう少し継続できれば」——そう思いながら、日々”努力しよう”とはしている。ただ、これがなかなか続かない。気づけば別のことをしていたり、少し休憩のつもりが長くなったり、いつの間にか時間だけが過ぎていく。
 やっていないわけではない。ただ、胸を張って「努力しています」とも言いにくい。
 そんな私も山梨百名山踏破を目指して約12年、現在98座まで来た。あと2つを登ることを目指して日々トレーニングをしている。山登だけは楽しみで続いている。
 登山を始めたのは2014年のことだ。きっかけは子どもを山に連れていったことだった。自分が幼いころ、自称登山家の父に半ば強制的に連れまわされた記憶がある。いやいやながらも、山頂の景色や達成感はたしかに心に残っていた。それを子どもたちにも味わわせたい、という気持ちだった。もっとも、子どもたちにとっての山の楽しみは、山頂の景色というより、カップラーメンと下山後のアイスクリームだった気もする。
 山梨百名山を目指しているのは、単純に山が好きだからだ。登り切ったときの達成感、稜線に出たときの解放感、そしてついでにダイエットにもなる。こんなに都合のいい趣味はなかなかない。今は義父のストックを持って登っている。義父は社交的な人で、地域の仲間たちと山に行こうとバスに乗り込んだその道中で体調を崩し、そのまま帰らぬ人となった。義母からそのときのストックを譲り受けたとき、なんとなく思った。せっかくなら、これを持って一緒に山梨百名山を登ろう。論理的な根拠はないが、山頂に立つたびにそんな気がしている。 

 鋸岳手前のピークから
北岳肩の小屋付近

 ところが今年に入ってから、妙な感覚に気づき始めた。週末に晴れると「山に行きたい」ではなく「行かなければ」と思っている自分がいる。あれだけ楽しみにしていたはずの山が、いつの間にか義務になっていた。
 考えてみれば、理由は単純だった。以前は「晴れたら行ける」がご褒美だった。大学教員になってから試合・合宿・深夜までの練習が続く中で、山はまさに「苦労して手に入れる時間」だったのだ。それが今は、時間ができれば行ける環境になった。希少性がなくなると、ご褒美感が消える。
 もうひとつ気づいたのは、「楽しさが入っていないと、私は動けない」という事実だった。

 孔子の『論語』に、「知之者不如好之者、好之者不如楽之者」という言葉がある。
 ~知っている者は、好きな者に及ばない。好きな者は、楽しんでいる者に及ばない。~
 まさしくそのとおりだと思った。

 友人に、大学卒業後すぐ会社を立ち上げ、今はコンサルタントをしながら若者の育成にも取り組んでいる男がいる。彼の文章にはよく「24/7」という言葉が出てくる。7日24時間、ということだ。365日働いているのに、会話のどこを切っても「やらされている感」が一切ない。しかも今はバレーボールの発展支援を無償でやっている。「好きだからやっているだけです」と言うが、そのときの目がとにかく輝いている。

 振り返ると、自分が一番動けていた時期も、たしかに「楽しかった」時間が多い。

 高校教員時代、最初に赴任した学校では、朝早くから夜遅くまで学校にいた。週末は13時から22時頃まで部活動。途中で生徒にご飯を作り、帰りが遅くなれば家まで送る。気づけば日付が変わっていることも珍しくなかった。
 ただ、不思議と「努力している」という感覚はなかった。
 もちろん大変ではあった。でも、それ以上に「この生徒たちに勝つ喜びを味わわせたい」という気持ちの方が強かった。
 ちなみに、高校の教員時代は山梨県でずっと2番だった。全国には届かなかった。

1校目の私をモチーフにしたキャラクター
白根高校HP(https://www.shirane-hs.kai.ed.jp/
2校目の学校の決勝戦

 代表チームのアナリスト時代もそうである。国際大会では他国のバスに乗せてもらって会場入りし、一日中データを入力し、終わるとまた他国のバスで帰る。宿に戻ってからデータ整理とミーティング資料を作り、睡眠は2〜3時間。それを1週間以上続ける。行き帰りの飛行機とバスが睡眠場所だった。客観的に見ればなかなかの労働環境だが、バレーボールを見ること自体が好きで、データから戦術を読み解くのも好きで、海外に行くのも好きだった。好きなことの延長線上にいるだけだから、しんどさの質が違う。「これはいつかネタになるな」と思っていたのも、余裕がなかったからではなく、ただ楽しんでいたからだと思う。
 そして、その代表チームもオリンピックには届かなかった。

中国北京会場(1人で偵察に行ったとき) 
ビーチバレーの国際大会で

 大学のクラブでも、部員が増えるにつれ練習時間が足りなくなり、21時半から23時半の練習に付き合い、その後に数人の自主練まで見ていたこともある。「せっかく大学まで来たバレーボールをしに来た学生に、バレーをちゃんとやらせてあげたい」という、それだけの話だった。また、その時間の学生との会話も楽しかった。
 関東2部リーグ2位。入替戦。フルセット、デュース。そして敗戦。

 結果だけ見れば、2位と準優勝と届かなかった悔しい話ばかりである。それでも、あの時間に価値がなかったとは一ミリも思わない。結局のところ、私は「人」が好きなのだと思う。私自身も勝ちたいには勝ちたいが、私自身が関わっている人が喜ぶことがすごく楽しい。人と関わること。一緒に笑うこと。誰かが楽しそうにしていること。それ自体が私には向いている。バレーボールが好き、山が好き、海外が好き、というのも全部本当だが、突き詰めると「そこに人がいる」ことが大きい気がする。そのスイッチが入っているときは、客観的にどれだけしんどい状況でも「努力している」という意識にならない。好きでやっているだけ、としか感じられない。

 学校現場は大変、ブラックなど色々な言葉がある。当然大変なこともある。しかし、楽しいことも多いはず。先生が楽しいと思える学校、先生たちの仲がいい学校になれば、子どもたちも学校が好きになる。生徒と関わることが好きな先生、みんなを巻き込んで何かすることが好きな先生がいれば最高です。
 今関わっている学生たちが、将来教員になったとき、自分が感じた“楽しさ”を子どもたちに渡していける。私はその連鎖を信じている。
 だから今日もこれからも、真剣にふざけます。

 山梨百名山踏破まで、残り2座。
 義父のストックと達成することを楽しみに、今週末も晴れたらきっと山にいます。