2025年5月1日
わが国では、人口減少・超高齢化社会など時代の潮流に伴う地域経済の衰退は、多くの地方自治体が直面している大きな課題となっています。また、居住地域の郊外化により地域内の人口が分散し、地方都市においては中心市街地の疲弊化が深刻さを増し、地域におけるコミュニティの形成が難しい状況になっています。このような社会的背景も相まって、スポーツを手段とする新しい地域活性化に注目する自治体が増え、スポーツを核とした地方創生が進められてきました。
これまで日本おけるスポーツは、体育・教育的側面に重点が置かれており、文部科学省がその役割を担っていましたが、2015年にスポーツ庁が創設され「体育」から「スポーツ」へ広義的に解釈されるようになりました。そしてスポーツ庁は、文部科学省を中心に、経済産業省・厚生労働省・国土交通省、外務省、環境省等の省庁間の重複を調整し効率化を図るとともに、新たな相乗効果を生み出すものとして設置されました。そこには、スポーツ基本法の制定(2011年)により、「スポーツを通じた地域活性化、経済活性化」が、国の施策として掲げられました。
スポーツ庁設立からこの10年間で、スポーツ界は大きく変革してきました。特に、2016年に閣議決定された「日本再考戦略2016」では、具体的な施策として①スタジアム・アリーナ改革、②スポーツコンテンツホルダーの経営戦略、新ビジネス創出の促進、③スポーツ分野の産業競争力強化の3点が掲げられました。そして、スタジアム・アリーナをスポーツ観戦だけでなく、市民スポーツ大会、コンサート、物産展などが開催され多様な世代が集う地域の交流拠点として整備することが当時の内閣により明言され、「スタジアム・アリーナを地域経済好循環システム構築」の重要な柱に位置づけられました。
欧米では過去30年間に、スポーツに経営ビジョンを持ち込み、官民が協力し合いさまざまな改革を断行し、具体的な取組みに繋げてきました。特に、スポーツと都市の繋がりが深いアメリカでは、経済効果が見込めるスポーツイベントを誘致できる「スタジアム」や「アリーナ」といった大規模なスポーツ施設がその都市の象徴となっています。アメリカ4大プロスポーツのNBA(ナショナル・バスケットボール・リーグ)、MLB(メジャーリーグ・ベースボール)、NFL(ナショナル・フットボールリーグ)、NHL(ナショナル・ホッケーリーグ)がフランチャイズとなっているかどうかが、スポーツ都市としての重要な機能を果たしており、そのまちのシンボルにもなっています。2014年に視察を行った「Staples Center(米国・LA)」※は、ロサンゼルスのダウンタウンにある多目的アリーナで、NBAレイカーズ・クリッパーズ、WNBAスパークス、NHLキングスの4チームのホームアリーナとなっていました。視察当日は、お昼にキングスのアイスホッケーの試合と夕方からレイカーズのバスケットボールの試合が同日に2試合開催されており、そのアリーナの規模と機能のすばらしさに感銘を受けたことを思い出します。

(2015年11月筆者撮影)
近年、日本でも同様に、プロ野球やJリーグ、そして2016年に開幕したBリーグの設立が、地方都市のブランド力を高める重要な核となっています。2023年から北海道日本ハムファイターズの本拠地となったエスコンフィールド北海道は、北海道ボールパークFビレッジとして、スタジアムだけではなく、パーク内に宿泊施設・商業施設・レストラン・マンションなどが建設されています。2024年に開業した長崎スタジアムシティは、ジャパネットホールディングスが運営するサッカースタジアム・アリーナ・ホテル・商業施設・オフィスからなる複合施設になっています。他にもBリーグを中心に、「沖縄アリーナ(琉球ゴールデンキングス)」、「SAGAアリーナ(佐賀ナルーナーズ)」、「オープンハウスアリーナ(群馬クレインサンダーズ)」、「LaLa Arena TOKYO-BAY(千葉ジェッツ)」等、日本各地で多機能な施設を有したスタジアム・アリーナ改革が進んでいます。
スポーツを核としたまちづくりは、多様な世代が集う交流拠点として地域活性化の起爆剤となり得るスタジアム・アリーナの潜在力を発揮することが重要であり、ひいてはそのことがスポーツマネジメントの役割であると考えます。
※2021年命名権の変更により現在は「Crypto.com Arena」に改名されています。