山梨学院大学 スポーツ科学部

卒業という人生の節目を迎える君たちへ手向ける言葉

2026年1月8日

上田 誠仁

 1985年にうどん県の讃岐からワイン県の甲斐に移り住み、山梨学院大学陸上競技部の強化育成クラブとしての活動が始まりました。2019年まで駅伝監督としての35年間。その後の中距離グループで7年間の指導も含め42年間の足跡は喜怒哀楽に満ちた人生でした。

 そして、卒業を迎える4年生諸君と共に、私も今年度で定年退職を迎えることとなりました。

 大学という教育現場では必ず卒業式という人生の節目に立ち会うこととなります。そのような節目に指導者は、したり顔をして何か花向けの言葉や、そっと背中を押してあげるような言葉を手向けるものです。

 人生における節目を大切に積み上げてゆかねば、「お前の目は節穴だらけだ!」ときっとどこかでお叱りを受けること必然です。教訓を活かせぬ人生を送ってしまっては残念至極なので、老婆心ながら最後のコラムを担当することとなったので語ってみたいと思います。

『今のこの苦しみから逃れるすべを知らない。

 今のこの悲しみを消し去るすべが見つからない。

 今のこの湧き上がる不安を抑えるすべが思い当たらない。

 なんともどかしい時を過ごした事だろう。

 今のこの喜びが消え去らないでと、願っても叶わない。

 今のこの感動が明日も味わえるとは、思ってもいない。

 今のこの平穏が永遠ではないと、理解している。

 すでに喜怒哀楽の人生を送ってきた君たちの人生観は、

 すでに甘い夢見事であろうはずがない。

 ならば、

 敗北や挫折の壁にたちはだかれたとしても

 確かな一歩を踏み出す気概を持ってほしい!』

 大学を卒業する頃には、多かれ少なかれ挫折や葛藤を経験していますよね。振り返ってみると、平穏な日常を送りたいと願ってはいるものの、些細なことに傷つき深く落ち込んでしまうことがあったとことと思います。肩にのしかかる重圧を避けることも、進む事も出来ない焦りに苛立ったこともあったはずです。しかも腹の底から湧き上がる、悔しさや惨めさをぶつける場所も見つからない、そんな時がきっとあなたの心に刻まれていることでしょう。今日まで頑張ってきた君たちだからこそ、これからの人生に困難苦難がつきものと、充分すぎるほど理解をしていることと思います。これからも、越えなければならない壁を必死によじ登らなければならないのが現実です。何もこれから社会生活を送るに君たちを、驚かそうと思ってこのような書き方をしたわけではありません。

『状況の厳しさは不可能を計る物差しではない。知恵と勇気を喚起させるカンフルだ!』

 新しい手帳の1ページ目に私が書き込む言葉です。

 試練なんてものは過去にもあったし、これからだっていつどのような形で自分の身に降りかかるかなんて誰にもわかりません。どんなにリスクマネージメントをしようが、突然火の粉は降りかかるものなのです。

 それゆえに、

「人生において何が起きるかが重要ではありません。それをあなたがどう受け止めるかが重要なのです。過去を変えることはできないけれども、自分と自分の未来を変えることはできると思います。そうであるならば自分の未来を変えるために勇気を奮い立たせ、知恵を絞ってまず一歩を踏み出しましょう」

 ということは伝えたいと思っています。

 絶体絶命のピンチ!逆風の上に足場はグラグラなんて時に、チョイとこの言葉を思い出していただけると、少しはお役に立てるのではないかと思っています。

未知との出会いは喜び!

未経験との出会いは感謝!

 20年やそこらの、ほとんどを学校という世界で過ごしてきたくらいじゃ世間というワンダーランドの、ほんの少ししか垣間見ていないに等しいのです。知らなくて当然。やったことが無い。上手くいかない。そんなことぐらいで悲観することは何も無いのです。でも、これだけは肝に銘じておいて下さい。

 君たちがこれから先、分水嶺に立つ様な状況になった時、そんな時は少々重い足取りであっても確かな方向に一歩を踏み出してください。厳しさを求め、進むべき道が茨の道であっても、躊躇なく選択する勇気と決断力を大学生活の中で多少なりとも身につけてきていると確信しているからです。

 卒業後に歩んで行くこれからの道は常に、“NOW AND HERE”,「今ここからのスタート」だからです。

『時の流れの中をチームメイトと共に過ごし、

    喜怒哀楽の心象風景を共有してきた。

 時の流れは、時に厳しく、無常に過ぎ去り、

    君達に、絶望と挫折の深淵を体験させた。

 時の流れは、時に優しく、たおやかに過ぎ去り、

    君達に、安息と思索の広がりを与えてくれた。

 時の流れは、時に激しく、慟哭の中をさまよい、

    君達に、忍耐と打開の知恵を授けてくれた。

 時の流れは、時に強く、感動と感謝の連鎖を生み、

    君達に、凛として生きる事の本質を気付かせてくれた。』

 より速く、より強く、より逞しく。より聡明に。

 人が持つ能力の限界に挑む真摯な姿は、いかなる文豪の書き綴る壮大な叙事詩であっても、書き尽くせないほど奥行きのあるドラマがあったはずです。それぞれが持つ4年間という時間軸が縦糸です。そして、励まし労わりあいそれぞれが持つ志を、日々の横糸として紡ぎ織り上げてきたのでしょう。そのような想い出と言う織物を君達はまとっているのです。

 どうか、かけがえの無い時の流れが無駄にならないよう、これからの人生を歩んでほしいのです。

 これからは、お互いが過ごす時間も場所も異なることとなります。しかし、じっと目を閉じれば必ず互いの心象風景が見えてくることと思います。卒業にあたって君達に送る本当のメッセージは、共に学び汗を流した時間の中にこそあるからです。