2025年11月1日

はじめに
私は平成に生まれ、平成で育ってきたいわゆる「ゆとり世代」である。十数年前までは、バブル時代を知らないことや平成生まれであることに驚かれることが多く、何かにつけて「これだからゆとりは…」と揶揄されてきた世代でもある。2016年には、ゆとり世代を題材にしたテレビドラマ『ゆとりですがなにか』が放送されたことからも、当時はゆとり世代について社会的な関心の的であったことが窺える。
しかし、時は流れ令和となった今、大学生の多くは2000年以降の生まれであり、「平成生まれ」や「ゆとり世代」という言葉自体が、すでに過去のものとなりつつある。そのような中で、近年よく耳にするのが「Z世代」という言葉である。皆さんは、このZ世代がどのような世代を指すのか、ご存じだろうか。私自身、最初はそれほど気に留めていなかったが、スポーツ心理学の分野では、動機づけの方法ひとつをとっても、年代や性差といった要因を考慮する必要がある。そのため、対象者の特徴が変化すれば、従来の理論も見直される時がくるのではないか、そんな素朴な疑問を抱くようになったのである。スポーツ心理学を学ぶ者として、Z世代と日常的に関わる者として、次第に「Z世代とは何か」という問いに興味を持ち始めた。
この関心をきっかけに、2年前にはゼミ生の卒業研究の一環として「Z世代アスリートの特徴と求める指導者像」をテーマに調査を実施したのだが、当時、Z世代に関する研究はマーケティングや消費者行動がほとんどで、スポーツとZ世代に関する研究は見当たらなかった。スポーツ現場ではZ世代の選手たちと日々接しているにもかかわらず、研究が進められていないことに驚きを覚えると同時に、新たな探究心が湧いたのである。以上を踏まえ、本コラムでは「Z世代について考える」をテーマに書くことにした。
Z世代のZとは?
アルファベット+世代という呼称は、1950年代に米国の写真家ロバート・キャパが、第二次世界大戦後に育った若者を撮ったエッセイで「Generation X(未知の世代)」と名付けたことに始まる。その後、1991年にカナダの作家ダグラス・クープランドの小説『ジェネレーションX―加速された文化のための物語たち―』が世界的なベストセラーとなり、「X世代」という言葉が広まった。以降、アルファベット順にX世代(1965年頃~1980年頃生まれ)、Y世代(1980年頃~1995年頃生まれ)、Z世代(1996年頃~2012年頃生まれ)と続いた(※誕生年には諸説がありばらつきがある)。日本ではX世代やY世代に、バブル世代、就職氷河期世代、ゆとり世代などが含まれる。Z世代が広く知られるようになった背景には、若者研究者の原田曜平氏がZ世代の紹介し、マスメディアやマーケティング業界での認知が進み、2021年には新語・流行語大賞トップ10に選出されてからと言われている。
Z世代とは
Z世代は、生まれたときからインターネットが普及しており、初めて持った携帯電話がスマートフォンであることも珍しくない。そのため、SNSが身近な環境で育った、いわゆるデジタルネイティブ世代である。オンライン上でのコミュニケーションに慣れており、ゲームなどのデジタルコンテンツを通じた遊びにも長けているのが特徴である。
Z世代の情報収集方法
少し上の世代であれば、気になる商品やお店を調べる際、GoogleやYahoo!などの検索エンジンを利用することが多いだろう。しかし、Z世代はInstagramやTikTokといったSNS内検索を活用し、リアルな口コミやインフルエンサーの評価を参考にする傾向がある。最近では、SNSを開くだけでおすすめ投稿やリール動画が自動的に表示されるが、これは視聴履歴などをもとにAIシステムが利用者の好みに合った動画や広告を提示しているためである。つまり、Z世代は自らが検索しなくとも、興味のある情報が自然と流れ込んでくる環境にあり、興味がなければスワイプ一つで簡単に情報を切り替えられる。かつての広告といえばテレビCMが主流であり、CM後の続きを見逃したくない一心で仕方なくCMを視聴することが宣伝効果を生んでいた。しかし、動画配信サイトやSNSの普及により、私自身も含めテレビCMを目にする機会はほとんどなく、現在どのようなテレビCMが放送されているのかさえ知らない。一昔前であれば、わずかな知識を得るために本や論文を読み漁る必要があったが、現代ではSNSを開けば膨大な情報が自動的に流れ込み、不要な情報を取捨選択する時代になっている。また、Z世代にとって、テレビCMのような一方的で押し付けがましい広告や過度な演出には関心が薄い。これは、「失われた30年」という低成長期を過ごしてきた社会的背景から、彼らが現実主義的な価値観を持つこと、さらに「タイムパフォーマンス(タイパ)」を重視する傾向が強いことに起因していると考えられる。


学生はクラブ活動の前後や授業前後にはスマホと向き合う
タイパ重視とAI
先述した「タイパ」とは、無駄な時間を省き、面倒なことに時間をかけないという考え方である。実際に、Uber Eatsなどの出店代行サービスを利用して時間と手間を買う時代になっている。私の学生時代にも代行サービスはあったのかもしれないが、当時の懐事情を考えれば利用する選択肢はなかったと思う。しかし、本学の学生の中には出店代行サービスを利用する者も一定数いるようで時代の変化を感じる。また、普段の学生生活を見ても、タイパを重視する傾向は多々見られる。例えば、課題に対しても長時間考えることは苦手で、ChatGPTを活用する学生が散見されるほか、より高度なサービスを利用するために課金する学生もいる。さらに、講義を録音するだけでノートを作成・要約も可能なAIノートアプリも存在する。学生からすれば、このような便利な機能を使わないのは非効率であり、活用してしまう気持ちも分かる。しかし、講義を行う側としてはジレンマを抱えている。この問題は、小山学部長が指摘した「学力=暗記力時代の終焉」にもつながるのであろう。近い将来、AIにはできない創造性や思考力が求められる時代となり、もしも授業の課題や試験でAIを活用することが当たり前になったら、出題側は相当な工夫が必要になる。
イミ消費
Z世代はタイパを重視するからといって、すべての行動で効率を最優先するわけではない。消費行動においても、X世代のようなブランド志向は低い傾向にあり、コスパが悪い支出やタイパの低い使い方は避ける傾向がある。その一例が、車を購入するのではなく、必要な時だけ料金を支払うカーシェアリングの利用である。一方で、インフルエンサーがおすすめする商品やサービス、あるいは商品のコンセプトに共感し、自身にとって価値があると感じた「モノ」や「コト」に対しては、時間もお金も惜しまない傾向がある。つまり、ブランド力ではなく、自分にとって「イミ」があると判断したものには積極的に投資するのである。その代表例が、サブスクリプションサービスの利用や「推し活」であろう。
価値観
現在の大学4年生は、SMAPの「世界に一つだけの花」が大ヒットした2003年に生まれた世代である。こうしたZ世代は、「ナンバーワンにならなくてもよい、もともと特別なオンリーワン」という時代で育った。また、小学生の頃にはインクルーシブ教育も導入されていたため、個性を大切にし、人種やジェンダーをはじめとした多様性や公平性を尊重することに長けている傾向にある。また、学校の成績評価は相対評価から絶対評価に変わり、校内順位をつけないケースも増えていることから、競争よりも協調が重視されるようになった。近年では、順位をつけない運動会も実施されるなど、その傾向は顕著である。このような時代背景を踏まえると、大学生の間で「あいつには負けたくない」といったライバル意識に燃える学生が減ってきているのも理解できる。
Z世代へのアプローチ
Z世代の離職率や進路への意識について、ゼミ生と実施した調査結果など記述したいことは多々あるが、尽きそうにないのでまとめに入りたいと思う。
このようなZ世代の特徴を踏まえ、私のスポーツ心理学系の授業では、Z世代への動機づけアプローチとして、選手自身が「この練習やトレーニングは効率が良くてイミがある」と実感できるような工夫が重要であり、現代は豊富な知識や経験を持った人たちの発信がSNSに溢れていることを踏まえ、現場の指導者には「SNS以上のコーチング」が必要であることを伝えている。
最後に・・・
ここまでお読みいただき、心から感謝申し上げます。この長文を根気よく読んでくださった方は、おそらくX世代やY世代の方かと思います。本コラムを通じて「これだから今の若者は」「昔はもっとこうだった」と感じることもあったかと思います。しかし、今から約700年前の鎌倉時代に書かれた随筆『徒然草』にも若者への嘆きが記されており、どの時代も先輩方は「最近の若者は」と嘆き、若者はそう言われ続けてきたことがわかります。心理学的には、この背景には思い出補正や過去を美化する回顧バイアスが影響していると考えられます。そのため、「昔はこうだった」ではなく、「今はこうなのか」と多様に受け入れることも必要かもしれません。
ここまでZ世代について記述してきましたが、あくまで傾向の話であり、「知らないより知っておいた方が良い」というレベルで捉えていただければと思います。そのため、「Z世代だからこうだ」と決めつけることは避ける必要があります。また、私は本文中で〇〇世代と表現しましたが、多様性を尊重する現代においては、世代でひと括りにすること自体がそぐわないのかもしれません。さらに、5年後の大学にはZ世代に続くα世代(2011~生まれ)が入学してきます。AIがどこまで進歩していくか計り知れませんが、AIにはできない教育・指導を目指して、これからも研鑽を積んでいきたいと思います。

学生が撮る写真はもっぱらBeReal.である
参考文献
・長谷川 寿一(2019)人間行動進化学から見た今どきの若者. 児童青年精神医学とその近接領域 60 ( 3 );301─305
・林 裕之(2022)「競争より協調」失敗したくない気持ちから来るさとり世代・Z世代のライフスタイル. 知的資産創造
・髭白 晃宜(2023)SNSコンテンツ利用にみるZ世代の消費行動のありかた. 産業総合研究 Vol.32(2023) Dec.pp.1-13
・髙橋 広行(2023)Z世代の価値観タイプの違いによる分類と理解─SDGs や働き方,幸福感との関連性を中心に─. 『同志社商学』第75巻第2号,49−77頁,
・原田曜平(2022)大学は「Z世代」を正しく理解できているか/「チル&ミー」を大切な価値観とするZ世代.リクルート進学総研. https://souken.shingakunet.com/higher /2022/ 07/zz.html (参照日:2025年10月28日)
・great place to work(2024)Z世代の特徴や性格とは?仕事や働き方に対する価値観やその向き合い方を紹介. https://hatarakigai.info/library/column/20231020_1181.html. (参照日:2025年10月28日)
・吉田兼好.徒然草.第百七十二段. https://tsurezuregusa.com/172dan/(参照日:2025年10月28日)
・教育新聞(2025)インクルーシブ教育とは 現状と課題を教育専門メディアが解説(参照日:2025年10月28日)
・日本教育新聞(2021)日本社会の「競争と順位付け」. https://www.kyoiku-press.com/post-229131/(参照日:2025年10月28日)
・Gaiax Co.Ltd. All Rights Reserved.(2025)Z世代に刺さるSNSはどれ?最新コンテンツマーケティングガイド【2025年版】https://gaiax-socialmedialab.jp/post-40749/(参照日:2025年10月28日)