2025年6月1日
2025年3月末をもって本学女子バレーボール部監督を退任し、新たな指導者に引き継ぐことになりました。25年間のバレーボール指導経験を振り返りたいと思います。特に私の指導者としての失敗経験が参考になれば幸いです。
指導者としての第1歩は現役選手を終えた翌年にA大学で外部指導者としてバレーボールに関わる機会をいただけたことです。当時の私は指導者というよりも選手の感覚が抜けず、監督の指導方針を理解せずに理想論ばかりを言い放ち、監督に悪態の限りを尽くす負のエネルギーに満ちたコーチでした。A大学男子バレーボール部はスポーツ推薦で入部する選手がいましたが、学年や時期を問わずに退部する選手が後を絶ちませんでした。退部する選手は問題行動(遅刻など)や練習中の表情などで私に悩みがあることを打ち明けていたと思いますが、当時の私には選手の思いを受け取る(寄り添う)ことができませんでした。
このような経験から一念発起して、選手の“こころ”を学ぶことを決意しました。2006年にB大学大学院に進学し、バレーボールとスポーツ心理学を学ぶ機会を得ました。そして、2010年は大学院生という立場でB大学男子バレーボール部の監督を務めました。監督である私は試合で流れが悪くなったと判断し、タイムを取りました。しかし、C選手から試合中に「なんでタイムを取るんだ!」と文句を言われました。試合の状況を簡単に説明するとB大学が23点、対戦相手のチームが21点でした。B大学がサーブミスで失点、次にB大学の攻撃が相手チームのブロックに完璧に阻まれて失点、23-23の同点となり、タイムを取りました。試合後にC選手と話をしましたが、逆転される前にタイムを取ると相手チームが勢いづくということでした。翌週の他チームとの試合では、B大学が18点、対戦相手のチームが10点でしたが、連続失点が止まらず、18-15まで追いつかれてしまいました。しかし、先週の試合のこともあり、私は意地になってタイムを取りませんでした。そうした状況下でコート内にいたC選手が私に「タイムを取れ!」と要求してきました。私は心の中で「先週の試合後と言っていることが違うぞ!なんだ、こいつは?」と叫んでいました。当然のことながら、タイムを取るタイミングは複合的要因から判断することであり、前回のタイミングが必ずしも今回のタイミングに当てはまる訳ではありません。今でも(今だからこそ)C選手とは自他尊重のコミュニケーションが不足していたことを反省しています。
D大学では専任教員に採用され、女子バレーボール部監督にも就任しました。当時はコーチング関係の書籍を参考にしながら、叱るよりも褒めながら次につながる課題を指摘して伸ばすことが良い指導だと考えていました。ある日、私は選手とミーティングを行った際にキャプテンのE選手が頑張っていることを選手全員の前で褒めながら次のチーム課題を示しました。コーチング関係の書籍に従った指導であると考えていましたが、ある選手から「E選手だけではなく、私たちも頑張っている。私たちのことを分かっていない。監督を辞めて欲しい」という言葉を浴びせられました。選手から言われて初めて配慮に欠ける行動であったことを猛省しました。それ以降、改善点を指摘することは当然ですが、選手を褒める場合でも個別に対応することを心掛けるようになりました。指導者は選手から学ばせてもらっている(共に成長する)ことを今でも心に留めています。
2016年から2年間、バレーボールトップリーグに所属する男子チームの監督から依頼があり、月1回のペースで心理サポートを行うことになりました。心理サポートで訪問した際は全体練習前に監督と選手の心身に関する情報共有を、全体練習後は監督に心理サポートを行った選手について守秘義務に留意しながら報告を行っていました。当該チームは日本代表チームに選出されている選手(選出された経験がある選手含む)がポジション争いをしている熾烈な状況にありました。このような状況下であることからスキルが劣っている訳ではありませんが、チームの戦略上、今まで試合に出場していたF選手が試合にほとんど出場できないシーズンがありました。私はF選手の苦悩を聴くこと、監督がF選手の努力(全体練習でチームメイトを鼓舞する声掛けをしていること、全体練習以外にも自主練習を行っていることなど)を認めていることを第三者の立場から伝えることを続けていた結果、やる気が低下することなく努力を続け、次シーズンは試合に再び出場できるようになりました。また、G選手からはミスをするとパニックに陥ってしまうことを打ち明けられました。私はミスをしてしまったG選手の苦悩に寄り添いながら聴くことを意識しました。そして年度終了後の振り返りでは、「ミスしても動じなくなった。次の1本に集中できるようになった。」とコメントしてくれました(詳細は「かいスポーツプレスVol.14」ドクター‘sコラム参照)。トップレベルにあるF選手とG選手に共通する対応は選手の気持ちに寄り添いながら聴くことでした。今回の経験から苦悩を抱えている選手に寄り添い、話を聴くことの意味を学ぶことができました。私は2016年4月に本学に赴任し、女子バレーボール部監督に就任しましたが、様々な要因(スキル伸び悩み、試合に出場できない不満、人間関係、学業、経済面など)で苦悩を抱えている選手と向き合ってきました。全てが円満に解決できた訳ではありませんが、選手の苦悩に寄り添い、話を聴くことで選手と共に苦難を乗り越えられたように思います。
私が25年間のバレーボール指導で気づいたことを以下に整理します。
・常に謙虚で。自己顕示欲(俺って凄い。俺が1番だ。)が強すぎると人間関係を築くことができず、得られる情報も得られない。
・自他尊重のコミュニケーション。
・選手はみんな努力している、頑張っている。選手1人ひとりに配慮が必要。
・苦悩を抱えている選手に寄り添い、話を聴く。
最後に連合艦隊司令長官であった山本五十六(1884~1943)の言葉を紹介します。
「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」
「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば人は育たず」
「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」
1行目はティーチング、2・3行目はコーチングの基本的な考え方を示しているように思いますが、皆さんはいかがでしょうか。

2025年度 春季関東大学女子2部バレーボールリーグ戦での本学選手たち